特集記事
「利用者が寒がるから」は理由にならない 介護スタッフを熱中症から守る職場づくりを

猛暑の介護現場では、利用者だけでなく働くスタッフの熱中症対策も欠かせません。 訪問介護・訪問看護、入浴介助、送迎、施設内での移乗介助など、介護職は暑さの中で身体を動かす仕事です。利用者への配慮と同時に、スタッフが安全に働ける環境を整えることも事業者の重要な役割です。
高齢者だけでなく、介護スタッフも熱中症になる
夏になると、高齢者の熱中症対策が繰り返し呼びかけられます。
もちろん、高齢者は暑さを感じにくく、体温調節機能も低下しているため、十分な対策が必要です。
しかし、介護現場でもうひとつ忘れてはいけないのが、
そこで働いているスタッフの熱中症リスクです。
介護職は、座って仕事をしているわけではありません。
ベッドから車いすへの移乗
排泄介助
入浴介助
居室間の移動
清掃や環境整備
送迎
屋外での移動
訪問先までの自転車や徒歩移動
など、勤務中の多くの時間で身体を動かしています。
同じ室温でも、じっと座っている利用者と、身体介助を繰り返している職員では、感じる暑さも身体への負担もまったく違います。
「利用者が寒がるから冷房を下げられない」は本当に正しい?
介護現場ではよく、
「利用者さんが寒がるから」
という理由で、冷房を弱くしているケースがあります。
利用者への配慮そのものは当然必要です。
ただ、それによってスタッフが汗だくになりながら介助を続けているのであれば、環境として適切なのかは考える必要があります。
利用者が少し寒いと感じるのであれば、
薄手の上着を着てもらう
膝掛けを使用する
風が直接当たらない席に移動する
エアコンの風向きを調整する
といった対応もできます。
一方で、介助中のスタッフは厚着をして暑さを逃れることはできません。
利用者の快適さとスタッフの安全は、どちらか一方を犠牲にして守るものではないはずです。
環境省も、冷房について一律の設定温度を求めるのではなく、日々の気温や仕事環境に応じて、健康を第一に柔軟に設定するよう呼びかけています。
入浴介助は特に危険な環境
介護現場の中でも、特に暑さが厳しいのが入浴介助です。
浴室や脱衣室は、
高温
高湿度
換気しにくい
身体介助が多い
防水エプロンなど熱がこもる服装を使うことがある
という条件が重なります。
しかも、スタッフは利用者を支えたり、洗身したり、移乗したりと、かなりの運動量があります。
「室内だから大丈夫」ではありません。
熱中症リスクは気温だけでなく、湿度や身体活動量などにも左右されるため、厚労省も職場での熱中症対策ではWBGTの把握と、それに応じた対応を求めています。
入浴介助については、
連続して何人も担当させない、途中で休憩を入れる、交代できる体制を作る
といった運用面の対策も必要です。
訪問介護・訪問看護は移動中もリスクがある
訪問系サービスでは、施設とは違った危険があります。
夏場の、
自転車移動
徒歩移動
駐車場から利用者宅までの移動
冷房のない利用者宅
移動直後の身体介助
などです。
特に訪問介護では、1件のサービスが終わればすぐ次の訪問へ向かうことも多く、
身体を冷やす時間や水分補給の時間そのものが確保されていない
ことがあります。
訪問時間だけを詰め込んだスケジュールではなく、
夏季は移動時間や休憩時間を含めた勤務設計に変えることも必要です。
「水分を飲んでね」だけでは熱中症対策にならない
スタッフに、
「こまめに水分を取ってください」
と伝えるだけで終わっている事業所もあります。
もちろん水分補給は大切です。
ただし、それだけでは不十分です。
厚労省は職場での熱中症防止について、WBGTに応じた対策に加えて、早期発見の体制や、重篤化を防ぐための対応手順の整備、作業者への周知などを求めています。
介護事業所でできる熱中症対策
室温を「利用者だけ」で決めない
利用者の状態だけではなく、
実際に介助しているスタッフの身体負担も含めて室温を調整する
ことが大切です。
風向きや衣服、座る位置などを工夫すれば、利用者の寒さ対策とスタッフの暑さ対策を両立できる場合もあります。
水分補給を「自由にできる環境」にする
「飲んでもいい」ではなく、
業務中でも確実に飲める時間を作る
ことが重要です。
訪問系であれば、移動スケジュール自体に水分補給や休憩時間を組み込むことも必要でしょう。
入浴介助は交代制にする
長時間連続して浴室に入る勤務は避け、
一定時間ごとに交代できる体制を作ります。
冷却用品を用意する
ネッククーラー
冷却タオル
保冷剤
冷却ベスト
携帯扇風機
なども、仕事内容に応じて活用できます。
暑さ指数を確認する
室温だけでなく湿度なども含めたWBGTを把握し、暑さの程度に応じて休憩や作業時間を調整します。
体調不良を言いやすい職場にする
「人が足りないから休めない」
という雰囲気が一番危険です。
頭痛、吐き気、めまい、強い疲労感などがあれば、すぐ申告できる環境を作る必要があります。
厚労省も、熱中症の早期発見と重篤化防止のための体制整備を重視しています。
電気代より高くつく可能性もある
電気料金が高騰する中、
「できるだけ冷房を使いたくない」
という経営側の気持ちは理解できます。
ただし、その結果として職員が熱中症になれば、
欠勤
代替職員の確保
他職員への負担増
残業
サービス提供への影響
労災対応
など、さらに大きな負担が発生する可能性があります。
何より、職員の健康を守ることは、事業所運営以前の問題です。
冷房は福利厚生ではなく、安全に働くための設備
という認識が必要だと思います。
管理者・経営者に考えてほしいこと
介護業界では、人材不足が長年課題になっています。
それにもかかわらず、
「暑いけど仕方ない」
「利用者が寒がるから」
「昔からこの室温だから」
という理由で働く環境が変わらないのであれば、スタッフが離れていくのも不思議ではありません。
人材確保を考えるなら、求人広告を出す前に、
今働いているスタッフが安全に働ける職場なのか
を見直すことも必要です。
CARELAY編集部コメント
介護は、人が人を支える仕事です。
だからこそ、利用者の安全を守る人自身が危険な環境で働いていてはいけません。
高齢者の熱中症対策はもちろん重要です。
でも、それと同じくらい、
介護スタッフを熱中症から守ることも事業者の責任です。
利用者が寒ければ衣服や風向きで調整する。
スタッフが暑ければ室温や休憩、業務配置を見直す。
どちらか一方ではなく、双方が安全に過ごせる環境を作ることが本来の職場づくりではないでしょうか。
猛暑が当たり前になりつつある今、
「うちは今まで大丈夫だった」ではなく、今年の暑さに合わせて働き方を変える。
そんな対応が介護現場にも求められています。
参考情報
厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」
厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」
厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」
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