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「教えたのに、なぜできない?」その新人教育、本当に“教育”になっていますか?

介護現場の新人教育では、「一度教えた」「説明した」で教育が終わってしまうことがあります。 しかし、本当に必要なのは、知識や手順を伝えることだけではなく、相手が理解し、自分でできるようになるまで支えることです。新人だけでなく、教育担当者や管理者にも改めて考えてほしい「育てる教育」について解説します。
はじめに
介護現場では、新人職員の入職、異動、担当変更など、さまざまな場面で職員同士が仕事を教えます。
その中でよく聞くのが、
「前にも教えたよね」
「一度説明したのに、どうしてできないの?」
「私は同じように教わってできたけど」
という言葉です。
私自身、介護職として教わる側・教える側を経験し、施設長として職員の教育を見る立場にもなってきました。
その中で感じてきたのは、
「教えた」という事実と、「相手ができるようになった」という結果が、混同されていることが多い
ということです。
今回は「教育」という言葉を、あえて「教える」と「育てる」に分けて考えてみます。
「教える」だけでは教育は終わらない
仕事の手順を説明する。
見本を見せる。
マニュアルを渡す。
これらは、もちろん教育に必要です。
しかし、それだけで相手ができるようになるとは限りません。
「教える」は、知識や方法を相手に伝えること。
一方で「育てる」には、相手が理解し、実践し、最終的には自分で判断してできるようになるまで支えることが含まれます。
つまり、
「私は教えました。できないのは本人の問題です」
だけで終わってしまえば、「教」はあっても「育」が抜けている可能性があります。
介護は「手順を覚えるだけ」の仕事ではない
介護現場では、マニュアルどおりに動けばすべて解決するわけではありません。
例えば移乗介助でも、
利用者の身体機能
麻痺の有無
痛み
認知機能
本人の残存能力
使用する福祉用具
その日の体調
によって、適切な介助方法は変わります。
そのため、
「この人は、こうやって介助してください」
だけではなく、
「なぜ、この利用者にはこの方法で介助するのか」
まで理解してもらう必要があります。
理由を理解していなければ、少し状況が変わっただけで対応できなくなります。
「一度できた」=「できるようになった」ではない
教育担当者が一度見守り、「できていたから、もう大丈夫」と独り立ちさせることもあります。
しかし、一度できたことと、安定してできることは違います。
例えば、
説明を聞いて理解する
指導者の見本を見る
一緒に実施する
見守りのもとで実施する
一人で安全に実施する
なぜその方法なのか説明できる
状況が変わっても適切に判断できる
ここまで確認して、初めて「習得した」と判断できる業務もあります。
特に安全に関わる介護技術では、「一度やったからOK」では不十分です。
教える相手は、自分とは違う人間
教育でよくある失敗の一つが、
自分自身を基準にしてしまうことです。
「私は一度聞いたら覚えた」
「普通これくらい分かるでしょう」
「こんなの感覚で分かる」
しかし、理解の仕方は人によって違います。
説明を聞いて理解する人
実際にやって覚える人
理由から説明されたほうが理解しやすい人
一度整理してから覚える人
緊張すると本来の力を出せない人
同じ内容を同じように教えても、同じ速度で習得するとは限りません。
だからといって、相手に合わせて何でも甘くするという話でもありません。
必要なのは、「この人にはどう伝えれば理解できるのか」を考えることです。
教育担当者が自分の教え方を変えられないまま、「この新人は覚えが悪い」と結論づけるのは早すぎます。
「私はこう教わった」は理由にならない
介護現場では、
「私の新人時代はもっと厳しかった」
「昔は見て覚えろと言われた」
「誰も丁寧に教えてくれなかった」
という話も聞きます。
しかし、自分が苦労したからといって、次の人にも同じ苦労をさせる必要はありません。
むしろ、自分が分かりにくかったことを、次の人には分かりやすく教える。
それが組織としての成長です。
教育方法まで「昔からこうだから」で引き継いでしまえば、同じ失敗を何世代も繰り返すことになります。
教育担当者によって言うことが違う職場
新人にとって非常に困るのが、
Aさんには「こうして」と言われ、
Bさんには「それは違う」と言われる。
という状態です。
そして最後には、「なんでできないの?」と言われる。
これでは新人の問題とは言えません。
厚生労働省も、介護現場におけるOJTについて、指導する職員自身に「教えること」を教育する重要性を示しています。
また、教育担当者によって教え方にばらつきが生じれば、事業所全体で業務手順やケアの質を一定に保つことが難しくなるとしています。
新人教育を担当者個人の経験や感覚だけに任せず、
基本となる手順
教える内容
到達目標
判断基準
を事業所として共有しておく必要があります。
「教えたのにできない」なら、まず理由を確認する
同じミスをしたとき、「前にも教えました」だけで終わらせず、なぜできなかったのかを確認します。
例えば、
そもそも説明を理解していなかった
手順は分かるが理由を理解していなかった
実際に経験する機会が不足していた
教える職員によって方法が違った
緊張や不安が強かった
業務量が多く整理できていなかった
本人が復習していなかった
原因によって対応は変わります。
できない理由を確認せず、本人の能力や意欲だけの問題にするのは教育ではありません。
もちろん、教えられる側にも責任はある
ここまで教育する側について書きましたが、
新人ができないことを、すべて教育担当者の責任にすることも違います。
教えられる側にも、
分からないことを質問する
メモを取る
復習する
指摘されたことを改善する
同じ失敗を防ぐ方法を考える
学ぶ姿勢を持つ
といった責任があります。
分からないのに「分かりました」と答え、復習もせず、何度指導されても改善する意思がないのであれば、教育方法だけでは解決できません。
大切なのは、教える側には育てる責任があり、教わる側には学ぶ責任があるということです。
どちらか一方だけでは、人は育ちません。
「できる」の基準を事業所で決める
教育担当者Aは、「もう独り立ちして大丈夫」と言う。
一方、教育担当者Bは、「まだ任せられない」と言う。
こうした状態が起きるのは、「できる」の基準が共有されていないからです。
厚生労働省のOJTに関する評価でも、訓練前に具体的な評価項目や到達目標を明確にし、終了後に達成状況を確認する考え方が示されています。
介護分野でも、OJTを通じて実践的な職業能力を高め、その到達度を評価する取組が人材育成の一つとして位置づけられています。
例えば、
一人で実施できる
安全確認ができる
必要な報告ができる
判断理由を説明できる
困ったときに相談できる
など、具体的な基準を決めておけば、教育担当者の好き嫌いや感覚だけで評価されにくくなります。
新人教育を「教育担当者だけの仕事」にしない
教育担当者を一人決めて、「新人教育は○○さんに任せています」で終わっている事業所もあります。
しかし、人材育成は事業所全体の仕事です。
教育担当者がどのように教えているのか。
新人がどこまで習得しているのか。
困っていることはないか。
教育担当者自身が困っていないか。
管理者も把握する必要があります。
厚生労働省も、介護人材確保について「参入促進」だけではなく、資質の向上や労働環境の改善を含めた取組を進めています。
採用した人を育てられなければ、採用活動を繰り返すだけになってしまいます。
新人が辞めたら「本人の問題」で終わらせない
新人が短期間で辞めたとき、
「最近の若い人は続かない」
「本人にやる気がなかった」
「介護に向いていなかった」
という結論になることがあります。
もちろん、本当に本人側の事情で退職することもあります。
しかし、その前に、
誰が教育していたのか
教える内容は統一されていたか
到達目標は明確だったか
新人が質問できる環境だったか
教育担当者に必要な指導をしていたか
独り立ちの判断は適切だったか
を振り返るべきです。
同じ理由で新人が何人も辞めているなら、それは個人の問題ではなく、教育の仕組みの問題かもしれません。
現場経験から感じること
私自身、介護現場で働き、施設長として職員を管理する中で、
「教えたのにできない」という場面を何度も見てきました。
しかし、詳しく確認すると、
一度説明しただけだったり、教える職員によって方法が違ったり、本人が何を理解していないのか誰も確認していなかったりすることがあります。
それでも最後には、
「覚えが悪い」
「仕事ができない」
という本人への評価だけが残る。
これは、とても危険だと感じています。
人を育てるというのは、自分が知っていることを相手へ渡すだけではありません。
相手ができるようになるために、伝え方を考え、確認し、必要なら教え方を変える。
そこまでして初めて、「教育」に近づくのではないでしょうか。
CARELAY編集部コメント
介護現場では、人材不足が大きな課題になっています。
だからこそ、採用することだけでなく、
入職した人をきちんと育てられる職場をつくることが重要です。
「教えたのにできない」と思ったとき、本人を責める前に、
本当に相手ができるようになるところまで教えられていたのかを一度振り返ってみてください。
教育担当者に必要なのは、誰より仕事ができることだけではありません。
相手の理解度を確認し、伝え方を変え、成長を支えられることも重要な能力です。
そして、その教育担当者を育て、教育の基準を整えることは管理者の役割です。
教える側と教わる側の双方が責任を持ち、事業所全体で人を育てる。
それが、人材が定着し、ケアの質を守る職場につながるのだと思います。
参考資料
この記事を書いた人
大野 洋|合同会社WaJu 代表
介護福祉士。介護現場での介護職、有料老人ホームの施設長などを経験。現場職員と管理者双方の立場で経験してきた課題をもとに、介護・福祉事業所の運営、人材育成、業務改善などについて情報を発信しています。
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