特集記事
まともな職員から辞めていく職場 問題行動を放置する管理者が組織を壊す

介護現場では、問題行動のある職員を「辞められたら困る」と放置した結果、周囲の真面目な職員が疲弊し、退職していくことがあります。 介護技術や仕事の速さだけで人を評価せず、個人の能力とチームへの影響を両方から見て、具体的な行動を指導・育成する仕組みが必要です。
はじめに
人手不足に悩む介護事業所では、職員に問題があっても、
「今辞められたら困る」
「仕事自体はできるから」
「注意すると面倒なことになるから」
と、指導を先送りにすることがあります。
しかし、その職員を一人残すために、周囲の職員が我慢し続けているとしたらどうでしょうか。
何も言わずにフォローしていた職員。
新人を支えていた職員。
利用者や家族から信頼されていた職員。
そうした人たちが疲弊し、職場を去っていくことがあります。
問題は、癖の強い職員がいることだけではありません。
明らかな問題行動を把握しながら、管理者が対応しないこと。
それが職場全体に、
「この行動は許される」
「声を上げても何も変わらない」
「管理者のお気に入りには何を言っても無駄」
というメッセージを与えてしまいます。
介護人材の確保には、採用活動だけでなく、雇用管理や労働環境を改善し、職員の定着につなげる視点が重要です。厚生労働省も、介護事業所の人材マネジメントを改善し、採用と定着を高める必要性を示しています。
問題のある職員より、放置する職場が危険
どの職場にも、考え方の違う人や、気の合わない人はいます。
性格の相性だけを理由に、一方を「問題職員」と決めつけるべきではありません。
一方で、次のような行動が継続している場合は、単なる相性の問題では済みません。
他の職員を見下す
新人や立場の弱い職員へ威圧的に接する
陰口や不満を周囲へ広げる
決められた手順を無視して独断で進める
必要な情報を共有しない
管理者の前と現場で態度を変える
自分のミスを他人の責任にする
職員を選んで協力する
利用者や家族への対応を人によって変える
こうした行動を周囲が認識しているのに、管理者だけが、
「でも、あの人は頑張っているから」
「私にはそんな態度を取らない」
「悪気はないと思う」
と扱えば、職員は管理者への信頼も失います。
本当に危険なのは、問題行動のある職員が一人いることではなく、
問題を指摘しても対応されない職場であることです。
管理者の前だけ「いい職員」になる人
問題行動のある職員ほど、相手によって態度を変えることがあります。
管理者や経営者の前では、
明るく報告する
積極的に仕事を引き受ける
事業所への貢献をアピールする
他職員の問題点を細かく報告する
一方、現場では、
他職員へ命令口調で話す
自分の仕事を押しつける
気に入らない職員を無視する
新人の失敗を必要以上に責める
管理者の名前を使って自分の意見を通す
という場合があります。
管理者が本人の話だけを聞いていれば、問題行動を起こしている側が「頼りになる職員」に見え、周囲の職員が「協力的でない側」に見えてしまいます。
その結果、真面目な職員ほど、
「何を言っても信じてもらえない」
「また自分が悪者にされる」
「説明するだけ無駄」
と考え、何も言わずに退職するようになります。
管理者は、自分の前での態度だけで職員を評価してはいけません。
「辞められたら困る」が、ほかの職員を辞めさせる
問題行動を指導しない理由として、よく使われるのが、
「辞められたら困るから」という言葉です。
確かに、人手不足の中で一人辞めれば、勤務表や人員配置に影響します。
しかし、一人を指導せずに残したことで、周囲の二人、三人が辞めていくなら、その判断は事業所を守っているとは言えません。
むしろ、
問題を起こしても注意されない
周囲が代わりに我慢する
本人は自分が正しいと思い込む
さらに言動が強くなる
職場の雰囲気が悪くなる
まともな職員から離れていく
という悪循環を生みます。
指導しないことは、本人への配慮でも優しさでもありません。
本人が自分の問題行動に気づき、改善する機会まで奪っているとも言えます。
人を「使える・使えない」と呼ぶ職員は要注意
介護現場で、職員について、
「あの人は使える」
「あの人は使えない」
と表現する人がいます。
これは軽い言葉に見えて、非常に危険な考え方です。
人を「使える・使えない」で評価するのは、その人を専門職や仲間としてではなく、
自分にとって都合よく動くかどうかで見ているということです。
自分の指示に従う人は「使える」。
意見を言う人は「使えない」。
経験の浅い新人は「使えない」。
自分の仕事を代わってくれる人は「使える」。
このような評価を口にする人は、職員を育てるのではなく、選別しようとします。
そして、その言葉を管理者が黙認すると、
職員間に勝手な上下関係ができる
新人が質問しにくくなる
苦手なことを相談できなくなる
一部の職員へ負担が集中する
派閥や陰口が生まれる
職員が互いを助けなくなる
といった問題につながります。
介護職員は、誰かが自由に「使う」ための存在ではありません。
人を「使える・使えない」と評価する言葉は、職場として明確に否定するべきです。
仕事が速いだけでは「優秀」とは限らない
問題行動を指摘すると、
「でも、あの人は仕事ができる」
「介助は一番速い」
「何でも一人でできる」
という反論が出ることがあります。
確かに、介護技術が高く、判断や処理が速いことは強みです。
しかし、その職員が、
周囲へ情報を共有しない
独断でケア方法を変更する
他職員を萎縮させる
新人が育たない環境をつくる
自分以外の方法を認めない
チームで決めた方針に従わない
のであれば、組織全体にとって本当に優秀なのかは慎重に考える必要があります。
介護は、一人で完結する仕事ではありません。
日勤から夜勤へ。
介護職から看護職へ。
施設から医療機関へ。
現場職員からケアマネジャーへ。
多くの人が情報を共有し、同じ利用者を支えます。
個人の能力が高くても、その人がいることで周囲が機能しなくなるなら、
個人としての成果と、チーム全体への影響を分けて評価する必要があります。
厚生労働省が示す介護分野の生産性向上でも、職場環境の整備、役割分担、情報共有、OJT、理念や行動指針の徹底など、組織全体で取り組む視点が重視されています。
協調性があるだけでも十分ではない
反対に、
「人当たりがいい」
「誰とでも仲良くできる」
「職場の雰囲気を悪くしない」
という理由だけで、高く評価される職員もいます。
協調性は重要です。
しかし、
介護技術を学ぼうとしない
制度やルールを理解しない
記録の不備を繰り返す
判断が必要な仕事を避ける
責任ある業務を他人へ任せる
同じ指導を受けても改善しない
のであれば、それも放置すべき問題ではありません。
人柄がよければ、技術や知識が不足していてもよいわけではありません。
個人として仕事を遂行する能力と、チームの一員として協力する能力。
どちらか一方だけでは、安全で質の高い介護は提供できません。
「個人」と「チーム」の両面から評価する
介護事業所の人事評価では、少なくとも二つの視点が必要です。
個人としての能力
介護技術
制度や業務に関する知識
記録の正確性
判断力
利用者への対応
責任感
学習姿勢
指摘後の改善
担当業務の遂行状況
チームへの貢献
必要な情報を共有しているか
他職員へ敬意を持って接しているか
新人や後輩の成長を支えているか
他職種と適切に連携しているか
決められた方針を守っているか
問題発生時に協力しているか
周囲が意見を言いやすい関係をつくっているか
チーム全体の業務改善に貢献しているか
厚生労働省の職業能力評価基準でも、介護職員の育成と定着を図るため、職務に必要な能力要件を整理し、知識や技能だけでなく職務遂行能力を評価する仕組みが示されています。
個人能力が高くても、チームへ深刻な悪影響を及ぼしていれば、総合的な評価は下がるべきです。
反対に、調整役や新人支援など目立ちにくい貢献も、適切に評価される必要があります。
管理者の「印象」で評価してはいけない
人事評価制度があっても、実際には、
「よく頑張っていると思う」
「いつも助けてもらっている」
「頼めばすぐ動いてくれる」
という管理者個人の印象で決まっている場合があります。
しかし、管理者にとって便利な職員が、現場全体にとって良い職員とは限りません。
管理者から頼まれた業務には積極的でも、日常的なフォローを他職員へ押しつけている場合もあります。
逆に、目立つアピールはしなくても、
他職員のミスを静かに補っている
新人の相談を受けている
家族の不安を丁寧に聞いている
情報共有の漏れを防いでいる
職場の対立を調整している
職員もいます。
評価は、管理者との関係性や好き嫌いではなく、
具体的な行動と事実
をもとに行わなければなりません。
形だけの人事評価では職場は変わらない
評価表を作り、年に一度面談を行うだけでは、人事評価制度が機能しているとは言えません。
評価制度を育成へつなげるためには、
評価項目を具体的な行動で示す
本人へ評価基準を事前に共有する
日常の行動を記録する
一度の印象ではなく一定期間を見る
複数の視点から状況を確認する
本人と面談し、認識の違いを確認する
改善点と期限を明確にする
必要な研修や支援を用意する
改善後に再評価する
ことが必要です。
評価は、職員へ順位をつけるためだけのものではありません。
本人が強みと課題を理解し、成長するための仕組みです。
指導は人格ではなく「行動」に対して行う
問題行動を指導するときに、
「あなたは協調性がない」
「性格に問題がある」
「みんなから嫌われている」
と言ってはいけません。
人格を否定すれば、本人は防御的になり、改善すべき点も曖昧になります。
指導では、
申し送りをせずにケア方法を変更した
新人へ大声で叱責した
他職員を「使えない」と発言した
決められた手順を守らなかった
利用者の前で職員を批判した
情報を共有せず業務に支障が出た
といった、具体的な行動を示します。
そのうえで、
何が問題だったのか
利用者や職員へどんな影響があったのか
今後どのような行動を求めるのか
いつまでに改善状況を確認するのか
を明確にします。
指導することと、感情的に叱ることは違います。
本当に優秀なら、役割と責任を明確にする
実際に技術や判断力が高く、周囲を牽引できる職員もいます。
その人を中心として現場を運営する価値があるなら、曖昧な影響力を持たせたままにせず、
正式にリーダーへ任命する
権限の範囲を明確にする
求める役割を本人へ伝える
他職員へ任命理由を説明する
チーム運営も評価対象にする
リーダーとしての教育を行う
必要があります。
技術が高いことと、人を育てられることは別の能力です。
「仕事ができるから、現場を任せておけばよい」と放置すると、本人の独断が強くなり、他職員との対立を生むことがあります。
問題を訴えた職員を「面倒な人」にしない
職場の問題を管理者へ伝えた職員が、
「また不満を言っている」
「人間関係の問題でしょう」
「あなたも気にしすぎでは」
と扱われることがあります。
もちろん、一方の話だけを信じて処分することはできません。
しかし、訴えを軽く扱えば、職員は二度と相談しなくなります。
必要なのは、
いつ
どこで
誰が
何をしたか
どのような影響があったか
同様のことが繰り返されているか
を整理し、複数の情報から事実を確認することです。
相談した職員を守りながら、相手側にも事情を確認し、公平に対応する必要があります。
放置すれば利用者や家族にも影響する
職員間の問題は、職員だけで完結しません。
情報共有が行われない。
職員によって対応が違う。
新人が質問できない。
ケア方針が統一されない。
職員が利用者の前で対立する。
こうした職場では、利用者へのケアにもばらつきが生まれます。
家族から見ても、
「職員によって説明が違う」
「頼んだことが共有されていない」
「職員同士の雰囲気が悪い」
「相談しても責任を押しつけ合っている」
と感じるようになります。
その結果、苦情や不信感が増え、事業所の評価低下にもつながります。
職場の人間関係を整えることは、職員のためだけではありません。
利用者へ安定したサービスを提供するための安全管理でもあります。
管理者が守るべきなのは「お気に入り」ではなく職場全体
管理者の役割は、特定の職員を守ることではありません。
また、問題を起こす職員を辞めさせることだけが目的でもありません。
守るべきなのは、
利用者の安全
サービスの質
職員が安心して働ける環境
公平な評価
適切なチーム運営
事業所の継続性
です。
そのためには、問題行動のある職員にも向き合い、必要な指導と支援を行わなければなりません。
「波風を立てないこと」と「職場を守ること」は同じではありません。
むしろ、必要な対応を避け続けることが、最も大きな波風を生む場合があります。
CARELAY編集部コメント
問題行動のある職員について、
「辞められたら困る」
「仕事はできるから」
「関わると面倒だから」
と対応を先送りにしている間にも、周囲の職員はその影響を受け続けています。
何も言わず、黙ってフォローしている職員ほど、限界に達したときには静かに辞めていきます。
退職届が出てから引き止めても、すでに職場への信頼は失われているかもしれません。
介護技術や仕事の速さだけで人を評価してはいけません。
人柄や協調性だけで評価するのも十分ではありません。
個人として仕事を遂行する力と、チーム全体を良くする力。
その両方を見て、強みは伸ばし、問題行動は具体的に指導する。
それが職員を育て、まともな職員が安心して働き続けられる職場につながります。
人を「使える・使えない」と呼ぶ文化では、人は育ちません。
職員は道具ではなく、それぞれ異なる経験と強み、課題を持つ専門職です。
管理者や経営者には、誰か一人の機嫌を守るのではなく、職場全体を守る覚悟が求められます。
参考資料
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