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お金を払えば何でもしてくれる? 介護サービスを利用する本人・家族に知ってほしいこと

介護サービスは、本人や家族の希望をすべて代行する「何でも屋」ではありません。 訪問介護、デイサービス、施設、ケアマネジメントには、それぞれ制度上の役割と限界があります。本人・家族と専門職が互いの役割を理解し、同じ方向を向いて支えることが大切です。
はじめに
家族が介護サービスを利用し始めたとき、
「これで介護は全部任せられる」
「施設へ入所したから、家族がすることはもうない」
「お金を払っているのだから、希望どおりに対応してもらえる」
と考えてしまうことがあります。
介護を続けてきた家族が疲れ切り、ようやくサービスにつながったのであれば、そう思いたくなる気持ちも理解できます。
しかし、介護サービスは、家族が担ってきたことをすべて無条件に引き受ける仕組みではありません。
介護保険サービスは、本人の状態や生活上の課題を確認し、ケアプランや個別援助計画に基づいて提供されます。サービスの種類ごとに目的、人員配置、提供時間、実施できる内容が決められています。
介護サービスを利用することは、介護を丸投げすることではありません。
本人、家族、ケアマネジャー、介護職、看護職、その他の専門職が、それぞれの役割を持って本人の生活を支えるものです。
介護サービスは「希望をすべて叶える契約」ではない
本人や家族が、事業所へ要望を伝えること自体は悪いことではありません。
本人がどのように暮らしたいのか。
家族が何に不安を感じているのか。
どのような支援を必要としているのか。
それを伝えてもらわなければ、適切な支援につながらないこともあります。
ただし、
希望を伝えることと、希望どおりの対応を当然に要求することは別です。
例えば、施設やデイサービスで、
常に一人の職員が付きっきりで見守る
希望した時間に必ず入浴させる
本人が拒否しても確実にケアを行う
他の利用者より優先して対応する
転倒や体調不良を完全に防ぐ
家族独自の方法をすべて再現する
といった対応は、本人の状態、人員配置、他の利用者への支援、安全性などによっては実現できません。
施設や事業所には、本人以外にも支援を必要としている利用者がいます。
自分の家族だけが、いつでも最優先で対応されるわけではありません。
「お金を払っているから、お客様」は少し違う
介護保険サービスの利用者負担は、原則1割で、所得に応じて2割または3割です。施設利用では、これに加えて食費、居住費、日常生活費などが必要になる場合があります。
もちろん、利用料を支払っている以上、事業所には契約に沿って適切なサービスを提供する責任があります。
説明を求めることも、問題があれば改善を求めることも正当です。
ただし、介護保険サービスは、料金を支払えば好きなサービスを自由に注文できる一般的な接客業とは異なります。
本人の自立支援、安全性、ケアプラン、制度上の範囲、他の利用者との公平性を踏まえて提供されます。
そのため、
「お金を払っているのだから、言ったとおりにしなさい」
という考え方では、専門職との協力関係をつくることはできません。
自己負担が何割であるかにかかわらず、本人や家族にも、制度と専門職への理解や敬意が必要です。
訪問介護員は、何でもするお手伝いではない
「ホームヘルパー」という呼び方から、
家のことを何でもしてくれる人
という印象を持つ方もいます。
しかし、訪問介護員は、本人の生活と自立を支援する介護の専門職です。
訪問介護では、ケアプランや訪問介護計画に基づき、
食事、排泄、入浴などの身体介護
掃除、洗濯、調理などの生活援助
通院等のための乗車・降車介助
などを行います。
一方で、介護保険の訪問介護では、何でも依頼できるわけではありません。
例えば、
同居家族のための調理や洗濯
来客への対応
ペットの世話
草むしり
大掃除
窓ガラス磨き
正月準備など、日常的な家事の範囲を超える作業
は、介護保険サービスとして提供できない代表例です。
「前の職員はやってくれた」
「少しくらいならいいでしょう」
「時間が余っているからお願いしたい」
と言われても、職員個人の判断で契約外の仕事を引き受けることはできません。
訪問介護員は、召使いや小間使いではありません。
本人に必要な支援を、専門的な計画に基づいて提供する職種です。
デイサービスは「預かってもらう場所」だけではない
デイサービスについても、
「朝から夕方まで預かってもらう場所」
とだけ考えてしまうことがあります。
しかし、本来は、本人の心身機能の維持、社会参加、入浴や食事の支援、家族の介護負担軽減など、複数の目的を持つ介護サービスです。
利用者ごとに状態も支援内容も異なり、職員は複数の利用者へ同時に対応します。
そのため、
本人だけを常に個別に見守ってほしい
家族の希望する活動だけを行ってほしい
他の利用者との関係を完全に調整してほしい
本人が嫌がっても必ず入浴させてほしい
帰宅時間を毎回自由に変更してほしい
といった希望に、すべて対応できるとは限りません。
事業所は、本人の意向、安全性、職員配置、他の利用者への影響を踏まえて判断します。
施設へ入所しても、家族の役割はなくならない
施設へ入所すると、
「もう施設に任せたのだから、家族がすることはない」
と考える方もいます。
しかし、入所後も、家族にしかできないことがあります。
例えば、
本人の生活歴や価値観を伝える
本人が好きだったことや嫌がることを共有する
衣類や日用品を準備・補充する
受診、治療、手術などの意思決定に協力する
金銭や契約上の手続きを行う
状態変化について職員と相談する
面会や連絡を通じて本人との関係を保つ
看取りや今後の生活方針を一緒に考える
といった役割です。
施設職員は、本人の生活を支援できます。
しかし、本人が歩んできた人生や家族関係まで代わることはできません。
入所は、家族の介護が終わることではなく、介護の方法や役割分担が変わることです。
ケアマネジャーは「何でも相談できる便利屋」ではない
ケアマネジャーは、本人や家族の相談を受け、状態や生活上の課題を把握し、ケアプランを作成します。
また、介護サービス事業者や医療機関などとの連絡調整、サービス利用後の状況確認や計画の見直しなどを担います。
一方で、現場では、本来のケアマネジメント業務を超えた仕事を引き受けているケースがあります。
いわゆる「シャドーワーク」です。
厚生労働省の検討資料でも、身寄りのない高齢者への対応を含むケアマネジャーの業務負担や、本来のケアマネジメントへ注力できる環境の整備が課題として挙げられています。
例えば、
行政手続きを本人や家族に代わって行う
入退院時の荷物を運ぶ
家族が行うべき連絡をすべて代行する
金銭や契約に関する対応を任される
本来は別の相談窓口が担う問題へ対応する
緊急ではない私的な相談へ昼夜を問わず対応する
といったことです。
ケアマネジャー自身が、
「自分がやったほうが早い」
「これくらいなら」
「困っているから仕方がない」
と善意で引き受けることもあります。
しかし、一度行った厚意が、次からは、
「前回もやってくれた」
「ケアマネの仕事でしょう」
と、当然の業務として認識されてしまうことがあります。
ケアマネジャー側も、家族側も、どこまでが本来の役割なのかを確認しなければなりません。
事業所側の安請け合いも、家族の誤解を生む
本人や家族に正しい理解を求めるだけでは不十分です。
事業所側にも問題があります。
利用契約や入所契約を取りたいあまり、
「うちなら何でも対応できます」
「認知症が重くても大丈夫です」
「医療対応も問題ありません」
「どのような行動があっても受け入れられます」
と、簡単に説明する管理者や営業担当者がいます。
しかし、実際にケアするのは現場の職員です。
強い認知症症状、暴力、介護拒否、常時見守り、頻繁な医療行為などがある場合は、
必要な人員を確保できるか
他の利用者の安全を守れるか
医療職との連携が可能か
夜間も対応できるか
現場職員が必要な研修を受けているか
事業所の設備で安全に対応できるか
を具体的に確認しなければなりません。
受け入れ先が見つからず、家族が困っていることもあります。
だからといって、できないことまで「できる」と伝えるのは、本人や家族のためにもなりません。
後になって、
「そんな話は聞いていない」
「できると言ったではないか」
というトラブルになり、本人、家族、現場職員の全員が苦しむことになります。
受け入れを断るかどうかだけではなく、安全に受け入れるための条件と限界を正直に伝えることが必要です。
善意で契約外の対応を続けることも危険
現場職員が本人や家族を思い、決められた範囲以上の対応をすることがあります。
その場では喜んでもらえても、それを繰り返すと、
「この事業所はやってくれる」
「あの職員はやってくれた」
「ほかの職員がやらないのは不親切だ」
という誤解を生みます。
結果として、正式なサービス内容と職員個人の厚意の境界が分からなくなります。
できないことを断るのは、冷たい対応ではありません。
職員によってサービス内容が変わらないよう、事業所として一貫した説明と対応を行うことも専門性の一つです。
事故や状態悪化を完全に防ぐことはできない
介護事業所には、事故を予防し、本人の安全を守る責任があります。
ただし、高齢者介護には、
転倒
誤嚥
骨折
体調の急変
認知症による予測困難な行動
介護や治療への拒否
病気の進行
看取り
など、どれだけ対策を行っても完全にはなくせないリスクがあります。
事故が起きたときには、事業所の対応や再発防止策を確認する必要があります。
一方で、事故が発生したという結果だけを見て、
「職員がずっと見ていなかったからだ」
「施設へ預けているのだから、すべて施設の責任だ」
「絶対に転ばせないようにするべきだ」
と決めつけることも適切ではありません。
事故を恐れるあまり、本人の行動を過度に制限すれば、自立や生活の質を損なうこともあります。
事業所はリスクを隠さずに説明し、本人と家族もリスクを理解したうえで、どのような生活を目指すのかを一緒に考える必要があります。
苦情を伝えることと、職員を攻撃することは違う
介護サービスに疑問や不満がある場合、本人や家族には説明を求め、改善を申し入れる権利があります。
事業所側も、苦情を軽視せず、事実を確認して対応する必要があります。
しかし、
職員を大声で怒鳴る
人格を侮辱する
長時間拘束する
契約外の対応を執拗に求める
特定の職員の解雇や処分を迫る
土下座を要求する
SNSや口コミへの投稿をほのめかして圧力をかける
職員の自宅や個人連絡先へ接触する
といった行為は、正当な苦情とは異なります。
厚生労働省は、利用者や家族等によるハラスメントについて、介護事業者が方針を明確にし、相談体制や対応手順を整備することの必要性を示しています。
介護職員も、暴言や威圧を受けるために働いているわけではありません。
本人や家族だからといって、職員が無制限に我慢する必要はありません。
「家族だから仕方ない」で済ませてはいけない
本人の介護をめぐり、家族が不安や疲労を抱えていることは少なくありません。
病気や認知症を受け入れられず、感情的になることもあります。
その気持ちを理解し、支えることは必要です。
ただし、事情があることと、職員への暴言や過度な要求が許されることは別です。
事業所が、
「家族も大変だから」
「苦情を大きくしたくないから」
「悪い口コミを書かれたら困るから」
と対応を避ければ、職員だけが負担を抱えます。
やがて、本人や家族の担当を避ける職員が増え、退職につながる可能性もあります。
結果として、本人へのサービスの継続にも影響します。
必要な場合は、管理者が窓口となり、複数の職員で対応し、契約内容や今後の対応を明確にすることが必要です。
理解のある家族は、現場にとって大きな支えになる
一方で、多くの家族は、事業所の説明を理解し、職員と一緒に本人を支えてくれています。
本人の状態変化を一緒に受け止める
できることとできないことを理解する
必要な物品や手続きを準備する
職員の報告を聞き、冷静に相談する
ケア方針を一緒に考える
本人のこれまでの生活や希望を伝える
職員へ感謝やねぎらいを伝える
そうした家族がいると、現場職員も相談や報告がしやすくなります。
事業所と家族の信頼関係ができれば、問題が起きたときも、互いを責めるのではなく、本人にとって何がよいのかを一緒に考えられます。
感謝を強制するという話ではありません。
本人を中心に、家族と専門職が敵ではなく同じチームになることが大切です。
家族もケアチームの一員
介護サービスを利用することは、家族がすべての責任から離れることではありません。
一方で、家族だけで介護を背負い続ける必要もありません。
介護サービスを利用しながら、
家族だからできること
専門職だからできること
本人自身ができること
制度では対応できないこと
別の支援や保険外サービスが必要なこと
を整理し、役割を分けていくことが大切です。
本人や家族が分からないのであれば、事業所は丁寧に説明する必要があります。
最初から理解できていることを前提にせず、
「何をしてもらえるのか」
「何はできないのか」
「家族には何をお願いするのか」
「困ったときはどこへ相談するのか」
を具体的に伝えることが必要です。
事業所が最初に伝えておきたいこと
利用開始時や契約時には、少なくとも次の内容を共有しておくことが重要です。
介護保険で提供できるサービス
介護保険では提供できないサービス
事業所の人員体制と対応可能な時間
緊急時の連絡方法
医療機関への付き添いや受診時の役割
家族に準備・対応してもらうこと
事故や急変のリスク
苦情や相談の窓口
職員へのハラスメントには組織として対応すること
状態によっては支援方法や利用継続を再検討すること
曖昧な説明で契約を進めるのではなく、書面と口頭の両方で確認することが、後のトラブル防止につながります。
CARELAY編集部コメント
介護サービスは、本人や家族を支えるためにあります。
しかし、
お金を払えば何でもしてくれるサービスではありません。
訪問介護員は、何でも頼めるお手伝いではありません。
ケアマネジャーは、家族の代わりにすべての手続きや問題を引き受ける便利屋ではありません。
デイサービスや施設も、自分の家族だけを常に最優先で対応する場所ではありません。
一方で、本人や家族が制度を十分に知らないことを責めるだけでは、何も変わりません。
事業所側が契約を優先して安請け合いしたり、できないことを曖昧にしたり、職員個人の善意に頼ったりすることも、誤解や過剰な要求を生む原因になります。
必要なのは、
最初から、できることとできないことを正直に伝えること。
そして家族にも、
介護を任せて終わりではなく、自分も本人を支えるチームの一員である
と理解してもらうことです。
理解のある家族と、誠実に説明する事業所が協力できれば、本人にとってよりよい介護につながります。
本人、家族、専門職の誰か一人へすべてを押しつけるのではなく、それぞれの役割と限界を認め合うこと。
それが、介護サービスを安心して続けるための基本ではないでしょうか。
参考資料
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